【開催報告】顧問先会社様にて社内研修の講師を務めました
弁護士法人みなみ総合法律事務所の代表弁護士、柏田笙磨です。
去る令和7年6月29日、当事務所が約3年間にわたり法律顧問を務めさせていただいております、第一環境管理株式会社様にて、年に一度開催される「清掃作業従事者研修」の講師としてお招きいただきました。
第一環境管理株式会社様は、延岡市を中心にオフィスビル、商業施設、公共施設など、多様な建物の清掃・環境衛生管理を手掛けておられます。当事務所は顧問弁護士として、日頃より同社の法務全般、特に労務管理体制の整備・強化をサポートさせていただいております。
今回の研修は、日々現場の第一線で業務に従事されている約70名の清掃作業員の皆様を対象としたもので、皆様が安全かつ安心して働き続けるために不可欠な、以下の3つのテーマについてお話しさせていただきました。
- 労災事例の対応と重大災害からの教訓
- 有給休暇の計画的取得
- ハラスメント防止(パワハラ・セクハラ・カスハラ対策)
当日は約70名という大人数での開催でしたが、皆様、ご自身の業務や権利に直結する内容ということもあり、終始、真剣な表情で熱心に耳を傾けていらっしゃいました。
第1部:ビルメンテナンス・清掃業における労働災害対応(重点テーマ)
今回の研修で最も時間を割き、重点的にお話ししたのが「労働災害」のテーマです。
皆様の業務は、社会の快適な環境維持に欠かせないエッセンシャルワークである一方、その業務の性質上、常に労働災害のリスクが伴います。厚生労働省や全国ビルメンテナンス協会の統計データによれば、ビルメンテナンス業の労働災害は「転倒」(約47%)、「墜落・転落」(約24%)が突出して多く、この2つで全体の7割以上を占めます。また、被災者のうち60歳以上の方が約67%を占めるなど、高年齢労働者の皆様の安全確保が喫緊の課題となっています。
研修では、これらのデータを踏まえ、清掃業務で起こりがちな具体的な事故事例(濡れた床での転倒、脚立の天板に乗っての作業による転落、薬剤の取り扱いミスなど)を挙げながら、事故防止の重要性について解説しました。
■事故発生時の初動対応
万が一事故が発生してしまった場合、最も重要なのは「①被災者の救護」と「②会社への速やかな報告」です。 特に、労災指定病院を利用すれば、被災者の方が治療費を立て替える必要がないこと、労災による治療には健康保険は使えない(使ってはいけない)ことなど、具体的な手続きの流れを説明しました。
■「労災隠し」は犯罪である
特に強く警鐘を鳴らしたのは、「労災隠し」の重大なリスクについてです。「これくらいの怪我なら大丈夫だろう」「会社に迷惑がかかるから」といった自己判断や忖度が、結果として治療の遅れを招くだけでなく、「労災隠し」という犯罪行為に繋がる危険性を強調しました。
労働者死傷病報告書の不提出や虚偽報告は、労働安全衛生法違反であり、事業者だけでなく行為者(現場責任者など)も刑事罰(50万円以下の罰金)の対象となります。 それ以上に、労災隠しが発覚した場合、企業は「従業員の安全を軽視する企業」として社会的信用を失墜させ、民事上の高額な損害賠償責任を負うなど、計り知れないダメージを受けます。
事故を隠蔽することは、誰一人として得をしません。事故は「起きてしまった後」の対応こそが重要であり、誠実かつ迅速に報告し、会社全体で原因究明と再発防止に取り組むことが、皆様自身と会社を守る唯一の道であることをお伝えしました。
第2部:有給休暇を賢く活用するために
第二部では、皆様の大切な権利である「年次有給休暇(有給)」について解説しました。
■年5日取得の「義務」
平成31(2019)年4月より、年10日以上の有給が付与される全ての労働者に対し、会社が年5日の有給を確実に取得させることが「法律上の義務」となりました。 これは、従業員の皆様の心身の疲労回復と、ワーク・ライフ・バランスの実現を国が後押しするものです。会社がこの義務を怠った場合は罰則(労働者1人につき30万円以下の罰金)も定められており、会社が「本気で」皆様の休暇取得を推進しなければならない法的背景があることをご説明しました。
■「休みづらい」という心理の克服
とはいえ、特に皆様のようなシフト制の業務では、「自分が休むとチームに迷惑がかかる」「上司が良い顔をしないのでは」といった懸念から、有給取得をためらってしまう心理が働きがちです。 しかし、適度な休息は、ご自身の健康維持はもちろん、リフレッシュによる業務品質の向上や労災防止にも繋がります。
研修では、こうした「休みづらさ」を組織的に解消するため、会社側には「シフト管理の工夫」や、特定の従業員しかできない業務をなくす「業務の標準化・多能工化」が求められること、そして従業員の皆様も「休むことは権利であり、義務でもある」という意識を持ち、計画的に休暇を活用することの重要性をお伝えしました。 また、1日単位だけでなく、「半日単位」や「時間単位」(※労使協定が必要)といった柔軟な取得方法を活用し、通院や役所の手続き、ご家族の行事などに充てる工夫についてもご紹介しました。
第3部:あらゆるハラスメントの防止
最後のテーマは、安全で尊厳のある職場環境の土台となる「ハラスメント防止」です。 かつては「個人の感情の問題」とされがちだったハラスメントは、今や法律(改正労働施策総合推進法など)によって、企業が防止措置を講じることが明確に義務付けられた「経営上の重大な法的リスク」です。
■「指導」と「パワハラ」の境界線
研修では、パワハラの法的定義(①優越的な関係、②業務の適正な範囲を超える、③就業環境が害される)と、6つの典型類型(身体的攻撃、精神的攻撃など)を解説しました。 特に、現場のリーダー層も参加されていることから、「業務上必要な“指導”」と「許されない“パワハラ”」の境界線について重点的に説明しました。 重要なのは「言った側の意図」ではなく、「客観的に見て、その言動が必要かつ相当な範囲を超えていたか」です。たとえ指導のつもりでも、他の従業員の前で大声で罵倒したり、人格を否定するような言葉を使ったりすれば、それは「指導」ではなく「パワハラ」と認定されます。
■ビルメンテナンス業特有の「カスハラ」対策
さらに、皆様の業務特性上、非常に遭遇するリスクが高い「カスタマーハラスメント(カスハラ)」についても取り上げました。 顧客や施設利用者から受ける、理不尽なクレーム、暴言、土下座の要求といった迷惑行為は、決して我慢すべきものではありません。 カスハラに遭遇した際は、
「安全の確保を最優先し、危険を感じたらその場を離れること」
「決して一人で対応しようとせず、すぐに上司や会社に報告すること」
安易な謝罪や約束をせず、会社として毅然と対応すること を徹底するようお伝えしました。従業員個人に責任を負わせず、会社組織として従業員を守る体制を構築することが不可欠です。
研修を終えて
研修後の質疑応答の時間では、「こういったケースは労災に該当するのか?」「お客様からこのような要求をされた場合はどう対応すべきか?」といった、まさに現場の実情に即した具体的なご質問を多数いただきました。皆様が日々直面されている課題意識の高さを改めて感じ、非常に有意義な意見交換の場となりました。
第一環境管理株式会社様が、このように全作業員を対象とした大規模な研修を毎年実施し、従業員の皆様の安全衛生と働きやすい環境づくりに真摯に取り組まれている姿勢に、顧問弁護士として改めて深く敬意を表します。
弁護士法人みなみ総合法律事務所は、今後も顧問先の皆様に対し、こうした従業員研修の実施や、日々の法務・労務相談を通じて、法令遵守(コンプライアンス)の徹底と、誰もが安心して能力を発揮できる職場環境の整備を、法的な側面から力強くサポートして参ります。
この度の貴重な機会をいただきました第一環境管理株式会社様、そして長時間にわたりご清聴いただきました作業員の皆様に、心より感謝申し上げます。
弁護士法人みなみ総合法律事務所は、令和7年10月現在、宮崎県内において120社を超える企業の皆様と顧問契約を締結し、労務管理をはじめとする多様な企業法務分野で専門的な知見を蓄積しております。
企業法務や従業員研修に関するご相談がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。
企業法務のご説明はこちらもご参照ください。
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